老化防止にホルモン注射は有効か?

老化の概要

更年期とは、性ホルモン(女性ホルモン、男性ホルモン)の生理的減少による身体症状が出る時期の総称を表す言葉で、男性は65歳以降、女性は40歳を過ぎると性ホルモンが低下します。性ホルモンが低下すると、身体症状、心理的症状のほか、高コレステロール血症、骨粗鬆症、内臓脂肪の蓄積などの臓器症状も引き起こされ、それぞれ進行して動脈硬化から脳血管疾患、骨折など老化の原因となる様々な病変を引き起こします。

 
そこでルードマン博士らが「ホルモン補充」によるアンチエイジングを提唱し、1990年に論文を発表したことで、成長ホルモンにより筋肉増強、脂肪減少することが明確に認められましたが、手が腫れて痛む手根管症候群、浮腫、糖尿病など副作用も強く、完全なアンチエイジング薬とは呼べない代物でした。1998年時点の統計では、アメリカでは更年期女性の3人に1人が「女性ホルモン補充療法」を行っていたと言われていますが、これは骨粗鬆症や高コレステロールに関して効果があるものの、心筋梗塞や脳卒中など罹患が生じる副作用が出ることが判明しています。

 
また、「DHEA」というホルモンがアンチエイジングに有効であると注目されたこともあり、これは性腺や副腎で作られる性ホルモンの一種で、血流に乗って体を循環し、末梢で性ホルモンに変換されると考えられていましたが、2年間投与して観察した論文では、筋肉増強や脂肪減少以外に明らかな効果は出ず、明らかな副作用も認められなかったので、現在ではアンチエイジングに有効ではないと結論付けられています。

 
さらに、豆類に多く含まれる「イソフラボン」の化学構造が女性ホルモンに非常に類似し、女性ホルモンの1/1000の活性があることが知られていますが、過剰摂取すると女性ホルモン過剰状態になり副作用が発現する場合があり、さらに骨量は増加しても骨折の予防ができないため、アンチエイジング目的のホルモンとしては十分ではないと考えられています。

 

一方、女性ホルモンを改良した薬として「SERM」(Selective Estrogen Receptor Modulator/選択的エストロゲン受容体モジュレーター)があり、すでに骨粗鬆症の薬として「ラロキシフェン」の製品名で発売されていますが、こちらは女性ホルモンのように骨粗鬆症や高コレステロールを改善できるため期待されている薬です。

 
同じく、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種に「レスベラトロール」という成分もあり、こちらは長寿遺伝子「Sirt1」に結合して活性化する物質ですが、高カロリー食を与えたマウスは肥満し早死にするものの、レスベラトロールを与えると体重は肥満したままで早死にしなくなるという研究が発表されています。これは、レスベラトロールによる「Sirt1遺伝子」の活性化が、肥満のままの状態でカロリー制限とよく似た分子機構を活性化したと考えられていますが、この実験で使われたレスベラトロールの量は赤ワインを1日100杯飲んだ量に相当するため、仮に老化防止を目的としてレスベラトロールを活用する場合は、吸収率が良いサプリメントで補う方法が現実的であると言えるでしょう。

 

(参考文献: 老化はなぜ進むのか BLUE BACKS / 近藤 祥司, 2009)
 

関連記事一覧